
「絶対に行くなよ、という目をしているときは、行ってはいけないと判断しました」(鹿島)
林 今のようにインターネットが盛んではない時代に、行きたいという店はどのように探されていたんですか?
鹿島 電話帳しかなかったので、公衆電話の下にぶらさがっている電話帳を見てですね。スマホなんかは当時はないので、”Vintage Clothing”とか、”Rug”というところを切り取って、ホテルに戻って公衆電話から店へ電話をするんですけど、クウォーター(25セント)をいっぱい入れないとすぐに終わってしまう。なので、25セントを入れ続けながら電話をしていました。だけど当時は今みたいに英語がわからなかったので、声を聞いて判断をするしかない。それでガソリンスタンドに置いてある街の地図を買って、ストリートを確認してボールペンで目的地を書いて、「ここまで行こうと思うけど、どう行ったらいい?」と聞くんですけど、「この先は危ないから、行っちゃダメだよ」と言われたり。絶対に行くなよ、という目をしているときは、行ってはいけないと判断しましたね。そんなことを何度も経験しています。

林 人の声や表情などで、なんとなくわかりますよね。
鹿島 旅をしていると敏感になりますよ。「うちに泊まっていいよ」って言われることがあるじゃないですか。一度それで泊まったら、ゲイだったんですよ。「一緒にベッドで寝ない?」と言われて、「寝ない」と言ったら「わかった」と言われたんですけど、それ以来人の親切も見るようになりましたね。
林 谷口さんは何か危険な目にあったとかありますか?
谷口 学生時代は無鉄砲だったので、入ってはいけない所に入ってしまったり。ネイティヴ・アメリカンの居住区には部外者は入ってはいけないのに、そういうところにズカズカと入っていて、土地のお兄ちゃんに「なんでジャップがこんなところをうろついているんだ」と言われて時計を取り上げられたりしましたね。あと写真を撮っていたら、遠くの方からライフルを向けられていたりとか。

鹿島 L.L. Beanのトートバッグや、Ralph Lauren系の服を仕入れると、すぐに売れるということがあった頃に、ボストンのあたりで古着を漁っていたことがあったんです。車の運転席以外はすべて荷物の山だったんですけど、クタクタになって夜中にホテルへ戻ってきて、シャワーも浴びずに寝ようとしたら、電話が鳴ったんですよ……「ホテルの前に車を止めたのはお前か?」って。「すぐに来い」っていうから行ってみたら、車の窓ガラスが全部割られてて、なのに何も盗まれていないという。向こうからしたら、L.L. BeanもRalph Laurenも、古着だから持っていっても金にならないという感じだったんでしょうね。
林 鹿島社長にとっては、価値のあるものでも、向こうの人にとっては当時は価値がないというその感じが面白いですね。今、アンティークや古着文化は、アメリカに根付いているものなんでしょうか?
鹿島 ボストンの上にブリムフィールドという街があるんですが、この業界の人は知っていると思いますが、年に3回1週間ほどアンティークマーケットが開催されるんです。このマーケットには、ありとあらゆる全米中のディーラーが、古い船、古い車、家具など、いろいろなものを持ってきまして、街全体がビンテージアンティークショップになるような感じなんですけど、それにいつもRalph Laurenチームが来ていて。彼らがすごく格好いいんですよ。足元がぐちゃぐちゃな中で長靴を格好よく履いていたり、Barbourのコートをスタイリッシュに着て、アンティークを買い付けにきているんですけど、バイヤーのファッションもすごく参考になりましたね。

「アメリカは、いろいろなものに対する進化が早い」(鹿島)
林 お2人は長いこと旅をされていますが、昔の旅と、今の旅とで、変わったことと、変わらないことはありますか?
谷口 あまり変わらないですね。情報源は変わりましたけど、僕はあまり下調べをしないんですよ。行く前に深掘りをしないで、もともと持っていた知識と引き出しで、旅をするのが好きで。どちらかというとその場所に行って気付く方が好きなんですね。自分が知らなかった世界に気付いて、後付けして自分で調べる方が好きなんです。なので、どちらかというと行き当たりばったりの方が多いですね。
鹿島 デイトナの事業が広がっている中で、今はアメリカの歴代のすばらしい建築を訪ねたりしています。今回も有名な建築を観に行ってきました。だけど、基本的にはあまり変わっていませんね。好奇心は常にビンビンに立てています。普通の人が見過ごしてしまいそうなものを、見過ごさないようにしないと、面白いものを発掘できなかったりしますからね。おかしいなと思ったら、足を踏み入れるようにしています。
林 毎年行かれても尽きないのがすごいなあと思います。
鹿島 アメリカは、いろいろなものに対する進化が早いんですよ。この旅が終わった後に、ロサンゼルスへ行ったんですけど、仕事先の人と一緒にオフィスまで移動したときに、車に乗って、ナビに行き先をセットして走り出したら、俺の方を向いているんですよ。そしたら自動運転で。これは、早いなと思いましたね。

林 谷口さんは、アメリカの旅や滞在でどのようなことを学ばれましたか?
谷口 殻を破りました。アメリカでは、発言をすることをするようになりましたし、ニューヨークに住んでいたときは本当にいろいろな人がいるので、多様性を学びました。一番驚いたのは、アマゾンにいた裸族の人がブラジル政府から奨学金をもらって、アメリカに留学をして、ハーレムで商売をしていたこと。もともと、お金を知らない裸族の人が商売をやっているんですよ。すごい人生だなと。それと僕が住んでいたのはブルックリンだったんですけど、もともと倉庫街だったところにアーティストが住みだして、ITで儲けた人たちがビルを買って、リノベーションをして、住民が変わって、街が変わっていった5年くらいの短い間にアメリカの変化をすごく感じたんですね。エネルギーというか。

林 アメリカで好きな場所、聖地みたいな場所がありましたら、教えて頂けますでしょうか。
鹿島 新卒の人とかに聞かれるんですよ。「社長、どこがいいですか?」って。全部って答えているんですけど、やっぱり各々の場所に良さがありますね。でも、やっぱりロサンゼルスの空港、LAXに到着をしたときの景色と空は好きですね。今でもヨーロッパへ行ったり、アメリカのいろいろなところを回って、ロサンゼルスの空港に来ると「ただいま」って思いますしね。

林 その景色は40年前から変わらないですか?
鹿島 変わらないですね。よく行く老舗のサーフィショプはあるんですけど、行くとおじさんがいて、シェイパーの誰とかは、俺の板もやってくれているんだよとか話をしたり。ローカルの話が僕たちにとって非日常なことが、日常なんだなと思ったり。ジョエル・チューダーやケリー・スレーターとか、普通にサーフィンしていますからね。
林 それを同じ意味では、私もアイスランドへ取材へ行ったら、ビョークが普通にカフェにいました。ローカルの人にとって日常は、私たちにとって非日常だっていう。
鹿島 日常って、なんか力が抜けていて格好いいんだよね。カリフォルニアの海沿いって、アメリカでも経済的に恵まれている人たちが住んでいるでしょう。中高生くらいの娘さんが、ボロボロのデニムにUGGのブーツを履いて、朝パンケーキ屋とかにパパと一緒に食べにきている。その姿がすごく可愛いくて、力が抜けて格好いいんですよ。そういう日常がある。
林 谷口さんは好きな場所はありますか?
谷口 僕もLAXやJFKなどの空港は好きですね。やっぱり帰ってきたと思います。ワクワク感。社会人になってニューヨークへ行ったときに、空港から地下鉄に乗ろうと思って、地下鉄の駅までバスに乗って行こうとしたら、英語喋れないのと緊張もあったんですけど、「この駅は地下鉄まで行きますか」って聞こうとしたら、「Is this subway?」って聞いちゃったんですよ。そしたらドライバーの人が大笑いして、「No No No! This is bus. Welcome to New York!」って言ったんですよ。笑われたんですけど、「あ、来たんだな」って。すごく覚えていますね。

「アメリカは「最低だけど、最高な国」(谷口)
「人々が上を向いて生きている感じがします」(鹿島)
林 最後の質問をさせていただきます。アメリカってどんな国ですか?
谷口 僕は、「最低だけど、最高な国」。アメリカで生活をしていて、目の前で911を体験をしたことで、世界観がひっくり返りました。それまでは、稼いだお金を全部つぎ込んで、ニューヨークを拠点にいろいろなところへ行っていたんですよ。アフリカに行ったり、南米に行ったり、中米に行ったり、世界中を見て回っていたときに、911が起きたんです。そのときに戦争の流れを見て、アメリカの傲慢さを見てしまった部分があって。そこから見る目が変わったんですけど、だけど今でもアメリカに戻ると、いいなと思いますね。力が抜けていて格好いいし、あとは進化のスピードが早い。常に新しい才能が生まれたり、新しいことをするのはアメリカらしいなと思います。あとはひとつの国なんだけど、それぞれの土地に異なるカルチャーとアイデンティティあって、各々が自分たちの郷土を愛していて、カルチャーを大事にしている。そういう意味で「最低で、最高な国」と言いたいんですけど。

鹿島 やっぱり人々が上を向いて生きている感じがしますね。もちろん貧富の差とか、人種の差とか、日本以上に理不尽なことがあると思うんですが。よくアメリカには、チャンスがあると言われていますけど、それはほんの一部であって、努力と才能のある人にチャンスがある。この間、独立記念日にホワイトハウスへ行ったときも、街の半分くらいの人がキックボードと自転車に乗って移動しているんですよ。道端にキックボードが転がっていて、そこに携帯をピッとかざすと電動のキックボードに乗れるんですけど、車で行くほどではない距離は、キックボードでいく。一度「良い」となったら、どんどん取り入れていく、そのアクセルの踏み方がアメリカはいいですよね。でもね、なんと言っても一番の魅力は、アメリカ人は可愛い。喜怒哀楽が激しい。すごく怒るし、泣くし。それと自分が思っていることを言える、それは違うよと言える自由。それがアメリカの多様性に繋がっているんだと思います。
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