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Ken Kagamiが追い求める、真摯で日常的なくだらなさの世界。-前編-

1919年生まれの黒猫・フィリックスは、2019年の100歳の誕生日をこんな風に迎えるなんて、想像もしなかっただろう。フィリックス生誕100周年を記念して、さまざまなアーティストとのコラボレーションアイテムが制作され、彼はいくつもの新しい表情を見せてくれた。フィリックスとアーティスト、それぞれの”らしさ”が際立つ素晴らしいコラボレーションを手がけたKen Kagamiは、アーティストとして、フィリックスに理想の姿を重ねるという。今回の企画の話をスタート地点に、うんこの話、アートについて、宇多田ヒカル…といったいくつものトピックを経由しながら、いろんなことにがんじがらめの2020年において重要な「真摯なくだらなさ」へとたどり着いた。ここにその対話を記録する。

起きてから眠るまで常に普通にくだらなくいる

ーフィリックスって100周年なんですね。ミッ○ーより歴史があると知ってびっくりしました。 ね。だけどミッ○ーの方が人気じゃないですか。フィリックスはこの位置だからいいんでしょうね。ミュージシャンでもアーティストでも、この位置がかっこいいんですよ。自分もこんな風にありたいって感覚があります。 ーその目線で見ていなかったので、新鮮です。 ずっとこのへんにい続けるのって難しいと思う。フックアップされて上まで行っちゃうとあとは下がるだけだし、キープすることが一番大切かなって。ミッ○ーとかキテ○ちゃんとか、もはや大御所でしょ?アートやってる人はフィリックスみたいな位置がいいと思いますよ。 ーフィリックスって白黒のキャラの元祖のような存在なのでしょうか? 全然わかんない(笑)。駄菓子屋に並んでいるガムのイメージですよね。そこもいいんですよ。みんな知ってるけど色褪せない。 ーあのガムって独特の雰囲気があって、記憶のどこかにひっかかっているというか。 そうなの。いい位置にいますよ。本人がどう思ってるかわかりませんが。 ー本人はもっと有名になりたいかも。 ね。意外と野心家だったりして。 ーこれを聞くのは野暮かもしれないんですけれど、加賀美さんがフィリックスを描く時、どんなふうに絵柄を決めていったんですか? そんなにはいじれないじゃないですか。本家に寄せながら、らしさを出したいと思いました。いい落としどころになったと思ってます。 ーどのくらいの時間をかけて描くのでしょうか? 速いですよ。これは下書きを描いたんですが、普段はだいたい下書き無しで一発。難しいモチーフは最初鉛筆で描いたりするんですけど、かなり速いです。 ー5分、10分とか。 そんなにかからないです。僕は適当に描いた1枚目のラフが一番好きだったりして。頭の中にあるものと極力近い状態の絵が面白いですよね。2回目は意識して描いちゃうから。 ー加賀美さんの絵を見ていると、自分にもできるんじゃないかなって気がしてくるところがあって、でも実際にやってみると全然違うものになりますよね。 絵を描く行為って、10人中9人はやらないですよね。時間があるんだったら他の事をする。でも、絵が得意じゃない人が描くと面白いですよ。テレビでダウンタウンの浜ちゃんが動物の絵を描いて笑われたりしてたけど、すごく良い絵だなって思った。下手だとバカにされるような風潮があるけれど、僕は面白いなって思う。もっと絵に興味がない人が描いたらいいのに。 ー絵に興味のない人が描いた絵を加賀美さんが選ぶ、みたいな企画を見てみたいです。 アートに無縁な人が描いた絵で本とか作ったりしたら、よさそうだね。でもみんな絵を描いてくれって頼まれたら、一生懸命上手に描こうとするでしょ。極力意識せずに、やることないから絵描こう、ぐらいがいいと思うんですよね。 ー脳と手の繋がり方って、人によって違うじゃないですか。頭から指先に行く間に変換されちゃう。そのあたりがピュアに見えてくると面白いですよね。 ね。年を取るほどに、頭の方はどんどん幼稚になっていくのがベストなんじゃないかなって感じがします。いかに頭が歳を取らないようにするか。それはもう訓練でしかないんですけれど。 ーその訓練って、具体的に何をやったらいいと思いますか? くだらないことを朝から毎日ずっと考えるとかかな。娘が小3なんだけど、彼女の行動を見てるだけで面白いし、絵とかもすごいんですよ。テレビの笑いとかは、全く何とも思わないんだけど。 ー笑い声のエフェクトが鳴る演出って、お約束的ですよね。ある種決まったフォーマットの笑いというか。 そうそう。自分を笑わせてくれるものって自分でしかないから。自分しかわからない面白いことを、起きてから眠るまで考えたい。面白いことを考えようって意識すると不自然なので、常に普通にくだらなくいるというか、自分が面白いなって思うことを誰かに言うわけでもなく、ただずっと考えていたり、ニヤニヤしたり、そういう感じですよね、一年中。

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それは大人になってからわかるのかもしれない

ー加賀美さんって、くだらなさを追い求めながらも、すごく紳士ですよね。 紳士?ジェントル?ほんと?ははは。 ー世の中や人のことをよく知っているんだなっていう感じがします。ギリギリ社会的なうんこをやっている、というか。 そうかな?ニュースを見て、世の中に何が起きてるか知ろうとはしてますね。ジャーナリストとかではないから詳しくは分からないけど、全部斜めから見るようにしてるんですよ。ニュースも、SNSも、全て。変な意味じゃなくてね。そうすると違ったところが見えたりして面白い。そういうことを常に考えているので、見る人によっては色々感じるのかもね。一部だとは思いますけど。「くだらねえなぁ」でいいんですよ。自分もやっててわかんないんだから(笑)。 ーいろんな人から信頼されているとも思います。 そんなことないよ。ぜんぜん友達いないもん。いつも家にいます。「加賀美さんは来ない」って感じになっちゃってる。家族もいるしね。自分の展覧会のオープニングとか、仕事でやったやつとかは行きますけど、人がいっぱいいるところ苦手で、何かダメなんですよね。 ーVOILLDの伊勢さんは「加賀美さんはVOILLDの父っす!」って話してましたよ。「真剣に叱ってもらったことがあって、感謝してます」って。 うそー。不思議な感覚ですね。この歳になると仕事する人とか、友達とか、ほとんど年下なんですよ。 ーどんな感覚ですか? バカみたいな下ネタをワー!って話してても、「僕が一番年上だな」とか、ふとした時に気づいて、「はあ」みたいな。ちょっと悲しいというか。しょうがないんですけどね。 ただ、お店に小学生とか中学生が来て「ファンです」とか「面白い」とか言われると一番嬉しいです。同じ年とか上の世代の人から言われるより、自分の子供くらいの歳の人から面白いと言われると、良かったなって。 ーそういう子達は理屈や損得で見てるわけじゃないですもんね。 そうですね。だからといってそっちに寄せるとか、若い人が面白がるようにやるってわけではないですけれど。 ーそういう若い人たちが「面白い」と感じるのは、どういう部分なのでしょうか。 僕がやってることはチャイルディッシュな物事をモチーフにしているからかな。裏にあるものは違うんだけれど、それは大人になってからわかるのかもしれない。パッと見はポップで、単純に面白いと感じるというか。 ー子どもの頃、サザンオールスターズの「マンピーのG★スポット」って曲をカラオケで歌っていたら、周りの大人がクスクス笑ってたんですけど、そういう感覚かもしれないですね。意味はわからないけど好き、っていう。 ああ、いい歌ですよね。それに近いのかも。    

-後編へ続く-

 

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Text_Taiyo Nagashima

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