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ピュアな憧れを追いかけて。芸人・上田歩武は刺繍をする。

芸人と刺繍職人。グッドウォーキンの上田歩武は、そんな二足のわらじを履く。お笑い芸人である彼が毎日せっせと刺繍の針を刺す理由は、どこまでもピュアな思春期の憧れにあるという。好きなことを突き詰め続けると、ときとして思いもよらない景色に出会える。彼の等身大の言葉は、そんなことを教えてくれた。

まだ何者でもない。高円寺の居酒屋にたむろしているような夢を追う人です

ー上田さんって、普段はどんな風に自己紹介するんですか? グッドウォーキンの上田です。刺繍芸人です。って説明するんですけど。ときどきフリーターって言っちゃいますね。謙遜というか、ちょっとまだ照れるところがあって。 ーどうしてなのでしょう。 芸人としても、刺繍の職人としても、まだまだ途中だと思っているんです。どっちもやってるから、「アメトーーク!」に出られたりしているんだけれど、これからだぞ!という思いがあります。 ー刺繍をはじめたきっかけは失恋だと過去のインタビューで話されていますが、そのときから刺繍と芸人でやっていくぞ、という思いがありましたか? いえ、ぜんぜん。当時付き合っていた恋人が刺繍をやっていて、教わりたかったんですけど、その前にフラれてしまって。とにかく没頭できることが欲しかったんですよね。当時はバイトと月二回のお笑いライブのルーティーンをずっと続けていて、すごく息が詰まっていたから、何かやりたいなと思って。 ー刺繍が心の拠り所になっていくんですね。 刺繍しているときはかなり集中するし、良いきっかけにもなりました。僕はM−1グランプリ18浪人中で、芸人としてはまだ何者でもない。高円寺の居酒屋にたむろしているような夢を追う人です。でもそこに「刺繍をやっている」っていうのが乗っかると、少しだけ興味を持ってもらえるんですよ。インスタグラムが名刺になりました。刺繍とインスタ、やっててよかったな。 ー刺繍をするとき、上田さんはどんな感覚なんですか? 刺繍は塗り絵だと思ってます。色を塗る時って、線を重ねて面にしていくじゃないですか。それといっしょ。一本一本の糸を集めて、面を作る感覚なんです。最初に挑戦するときは難しいかなと思ったんですけど、塗り絵だ!って思ったら意外といけたんですよね。 ーなるほど。そういう感覚で捉えたことはなかったですね。 あとは立体的だったり、触り心地が独特だったりするのがいいですよね。見てくれる人にはよく「上田さんの刺繍は味があっていいですね」って言ってもらえます。僕はただ一生懸命やっているだけで、味のある表現にしよう、とかは考えてないんですけど(笑)。 ー上田さんならではの味が魅力になっているという。 このあいだ母親から電話があって、「あんたなんか最近上手くなってない?あかんやろ!」って叱られました。そのくらい、下手さが大事みたいですけど、365日毎日やってるんだから、そりゃちょっとは上手くなるやろ!って。

アルバイトをしてなんとかスニーカー買ったりしていた頃の延長戦をやってる

ーモチーフのチョイスは、カルチャー好きな男の子らしいですよね。 やっぱりファッションがベースにあって、自分が見てきたスニーカーとかカルチャーネタとかを「おもしろいんじゃないかな」っていうシンプルな発想で刺繍にしたり、紙粘土でつくったりしています。説明したり、インスタでハッシュタグをつけたりもしないんですけど、みんながわかってくれるのがうれしいですよね。「あ、これはカートコバーンだ!」とか、「マイケルジョーダンだ!」って、伝わるから、みんな賢いな〜って。イメージする力はすごいですよね。 ー思春期にハマったものをいまだ追いかけている感覚ですか? まさに思春期を取り戻していく感覚ですね。アルバイトをしてなんとかスニーカー買ったりしていた頃の延長戦をやってるんですよ。今もそんなにお金はないんですけど。 ー突っ込んだ質問をさせていただくのですが、刺繍だけで生計を立てているんですか? 今は刺繍で生活できています。でも、かなりきついですよ。一つ一つ手でやっているから大量生産できないし、ベースになるキャップとかTシャツも、僕が自費で仕入れているし。なんとかやってますけど、アシスタントになってくれる人いないかな…。 ーアシスタント募集しましょう。この記事で。 あ、嬉しいです。もし希望の方いたら、インスタにメッセージください。 ーたとえば、AIが自動で刺繍をつくれるようになったらどうします? すぐ頼みます。でもたぶん最初は叱るでしょうね。AIはめちゃめちゃきれいにやっちゃうと思うので、「おれっぽくないやん、ちゃんと下手にやれよ」って叱って、学んでもらいます。 ーあ、「上田さんっぽさ」をAIに学ばせていくんですね。 きれいにやったら僕らしくないんで。僕らしさを学んでいいかんじにやってくれたら、ラクできていいなあ。AIにも個性があっていいとおもんです。賢いやつ、上手なやつ、下手なやつ、サイコパスなやつ。よくわかんないですけど(笑)。AIが僕らしさを覚えてくれたら、あとはたばこ吸いながらのんびりしますね。

サボらず、ハマり続けよう

ーこれから刺繍の他にやりたいことはありますか? もちろん芸人としてもっとテレビに出たいし、憧れていた人と仕事したいです。ヴィヴィアンウェストウッドとか、アンダーカバーのジョニオさんとかに会いたいですね。単純に自分が憧れてきた、一時代を築いてきた人たちに対するリスペクトがあります。 ーピュアな思いが変わらずにあるんですね。 バリバリありますよ。モテたいとか。 ーモテるんじゃないですか? いや、ぜんぜん。展示に会いに来てくれる人はいますけど、それがモテにつながるわけじゃないし、まあモテたいっていうか、楽しくやっていきたいですよね。 ー今回の展示では、スニーカーをモチーフにした立体作品もありますが、マイベストスニーカーを3足選ぶとしたら、何にしますか? スーパースター、エアジョーダン1、コンバースのオールスター…いや、ジャックパーセルかな。スーパースターとジャックパーセルは、昔からめちゃめちゃ履いていたので。ジョーダン1はとにかく憧れてました。憧れすぎて、ジョーダン1のシューレースの紫がかった青を再現したくて、自作したこともあります。 ーどうやったのでしょう? 白いシューレースをダイロンっていう染色材で紫に染めました。ユーズド感も出したかったから、染めたあとにハイターにちょっとつけてみたりして…。ソールもわざと黄ばませたくて、そもそもスニーカーのソールって、なんで黄ばむんやろ?って思って調べたら、「日光と洗剤の残りが反応して黄ばむ」ってことがわかったから、黄ばませるために洗剤を買ってきて、筆でぬって、ベランダに置いて…。 ーものすごい凝り性なんですね。 一度ハマると、とにかく没頭してしまうんですよね。でも、そうやって没頭してきたことがつながって、今こうして刺繍のポップアップをやらせてもらえている。これからもサボらず、ハマり続けようと思います。  

Text_Taiyo Nagashima

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