2019年のオープン以来、Fashion―Sustainable―Artをコンセプトにセレクトし、他では味わえない体験・空間を提案しているFirsthand。今回また新たな試みを発信している。それは、アート集団チームラボがデザインしたサスティナブルなエコバッグ「teamLab Folding Rice Bag」の発売。コラボするに至った理由、またそこに込めた想いについて、チームラボを率いる猪子寿之氏、Firsthandディレクター福留聖樹へ聞いた。
ーチームラボ×Firsthand、この組み合わせは必然のような意外なような・・・。そもそもおふたりはどのようにして出会ったんですか? 福留 直接出会ったのは去年ですね。猪子さんを接客しているスタッフから紹介されて。 猪子 そのちょっと前に、知り合いがサスティナブルをコンセプトにしてるお店に転職するって言うんで。実際に行って見てみたら、全部がサスティナブルをコンセプトにしているもの扱ってて!すげえなって。「成り立つんですか?」って80回くらい店員さん聞いて(笑)。「まぁ成り立ってますよ」「まじか!」って。 福留 その時は、絶対着ないだろうなっていうツータックのパンツを購入してて(笑)。
ーそれが出会いだった?
猪子 実質はそうなんだけど、それよりも前に、うち(EN TEA HOUSE)で扱っているお茶「EN TEA」を、2年位前かな?お土産で持って帰れるようにしようと考えてて、なんとなくティーバッグって使い捨てだしアレだなっていうんで、お茶のブランド自体もサスティナブルな方にシフトしたんですよ。EN TEAを扱っているチームラボボーダーレスというミュージアム自体も、日本で初めてオープン時からペットボトルがない自販機で、アルミ缶の水をわざわざ作ったんですよ。で、そのお茶もFirsthandで扱ってもらうようになって。
福留 猪子さんは、アートの世界でやられてるのと、実際にやりながら考えてらっしゃることのギャップが面白かったです。一般の人から見たら、デジタルアートは電力いっぱい使ってます、みたいなイメージがある中で、サスティナビリティに対しての意識が高いのは、こういう考えがあってああいうことをやってるからこそ、きっと今やられてることの中にも意味があるというか・・・。 猪子 いや、デジタルって物質からの解放だからね。物質から解放しなきゃいけないと思って。で、デジタルにすごい興味を持つようになって。デジタルが、物質が人々に与える価値以上の価値を与えてくれるならば、人類は必ず物質から解放されていく。存在することが価値ではなくて、体感こそが価値に(なるように)、価値観を変えたいと思ってデジタルでアート作り始めたから。 ーチームラボが11月8日まで佐賀県の御船山でやっていた「かみさまがすまう森」にも繋がっていきますね。 猪子 そうですね。デジタルだから実は自然そのまま使えるし。 福留 その御船山のプロジェクトの話は、いつ聞いても影響を受けます。個人的にも現地に滞在し、アニミズム(自然崇拝)と現代的要素との掛け合わせに、新しい価値を感じることが出来ました。ファッションの世界でもサイエンスやテクノロジーによって、ナチュラルでありながらも機能的な新しいマテリアルが開発されていること、クラフト的な要素への回帰があることにも通ずるものがあります。 ―そんなおふたりの共鳴から、米袋を使ってのエコバッグ「teamLab Folding Rice Bag」のコラボへと繋がっていくんですね。そもそもどうして「米袋」をアップサイクルしようと?
猪子 都市部で生活してると意図せずコンビニ行くじゃん。てことは、朝出かけるときにコンビニ行くと知らずに家を出るわけですよ。つまりずっと空っぽのままエコバッグを持ち続けなきゃいけない。だから使ってない時に一番スマートなエコバッグを作ろうと思った。それが1個目の理由。2個目は、コンパクトになるっていろんな方法があるけど、日本は伝統的に紙の文化で、使ってない時に折り畳む、みたいなものがもともとあった。折ってコンパクトになって、すごく日本的な背景があるものがいいなと思ったのが2個目の理由。3つ目は、廃品を使えたらいいな、十分流通されてるものを使えないかな、と。ボク、田舎(の出身)だから、今でも米は紙袋に入ってるんですよ。米を何十㎏も入れられるくらいだから丈夫だし。で、もともとギフトショップ用のエコバッグを作ろうと思ってたから、世界の人が来たときに、そういう日本の文化的背景があって、それがエコバッグになってるっていうのはすごくいいな、と。ただね、手間はかかるんですよ。もとのカタチを崩さずに余計なところは取り除いて縫い直す。紙が分厚いから糸も太いし。部品を足さないようにして手仕事だけ増やして大変なんです(笑)。
福留 折る文化は、いろんな方法がデザインに落とし込まれるのは、すごく勉強になりましたね。 ―昨今、ファッション界もサスティナブルな方向へ進んでいますね。 福留 それはポジティブに捉えています。出来ることからまずやる。まだ出来ていないことについては、出来ていない企業を応援するところはじめればいいと思います。ひとつやりはじめると、次も何かサスティナブルなことが気になるようになる。そのループが大切だと思います。 猪子 このコロナ禍で、お茶もそうだけど、エコバッグは行けるってなって助けてもらいました 。
―今、コロナのお話が出ましたが。コロナ禍にも新しい試みをされていましたね。 猪子 家のテレビがアートになる「フラワーズボミングホーム」っていうの作ったんだけど、みんなが家にいなきゃいけない状況で、美術館も行けないわけじゃないですか。ある種の無力感に苛まれたんだけど、一方で、イタリアでみんなが歌いあってるのを見てさ、すごくいいなと思ったの。家にいながらも参加できるってすごいなぁと思って。ニュースでは分断を煽りまくるというような現象を見てる中で、家にいながらも世界とつながっていることを祝福できるような、家のテレビがアートになったらいいなと思って、夏にリリースしました。しかも、今は絵にもなるんです。自分の描いた絵に合うような花が自動的に集まってきて1個の作品になって、その画像がダウンロードできるんです。
―何かをはじめるとき、どこからかアイディアが降って来るような感じですか? 猪子 いやいや、自分でやれることなんて、所詮今まで生きてきたちょっとずつ積み上げてきたことに、ほんのちょっと足すことぐらいしかできない。アイディアなんか降ってくることなんかなくて、今もたまたま、ちょっとずつ積み上げてきたものがここにある。やれることなんてほんのちょっとだから、ちょっとだけ足すみたいな、そういう話ですよ。 福留 猪子さんがすごいのは、人に対しての優しさみたいなのがあるんですよね。誰かのことを想ってたりするところから生まれるんじゃないのかな。それから、チームラボが掲げる「ボーダーレス」は、Firsthandの中でも大切にしている思考のひとつです。人種やジェンダー、国や業界などの壁はなるべくない方が、新しい価値を生み出せると思っています。計画を立てている暇があれば、まずは会いに行ってみたり、試してみることが大切かなぁと。
―また、チームラボ×Firsthand、猪子×福留のコラボが見たいですね。 福留 実は、先日の打ち合わせのときにちょっと話に出たアレ、つくってきたんですよ。マカオの作品で服が濡れちゃうから。
猪子 え!アレ??濡れても大丈夫な服?? 福留 水をはじきます。お茶をこぼしても大丈夫!
猪子 スゴイ!!洗濯もできる? 福留 できます! 猪子 アノ展示で実用化するには・・・。 福留 素材を変えて・・・。
お互いのことを「刺激を受けて次の何かを生み出すキッカケになる」、「ひとつ聞くと、知らないことがすぐ出てきて面白い」、と評するふたりのケミストリー。この後も、ふたりのアイディアは尽きることなく、次のコラボの話もまた聞けそうな予感漂う展開となったのでした。

teamLab
テクノロジーとクリエイティブの境界はすでに曖昧になりつつあり、今後のこの傾向はさらに加速していくでしょう。
そんな情報社会において、サイエンス・テクノロジー・デザイン・アートなどの境界を曖昧にしながら、『実験と革新』をテーマにものを創ることによって、もしくは、創るプロセスを通して、ものごとのソリューションを提供します。
Text_Hiroko Abe